
『ベリー侯のいとも豪華なる時祷書』の《解剖学的人体あるいは占星学的人体》
図版出典:File:Anatomical Man.jpg – Wikimedia Commons
ランブール兄弟(15世紀初期活動)による『ベリー侯のいとも豪華なる時祷書』の《解剖学的人体あるいは占星学的人体》(1411-1416)は、写本に描かれた幻想的な人体図である。そこには、この時代における医学と占星学の密接な関係が示されている。
時祷書とは、キリスト教徒が日々の祈りのために使用する書籍である。その挿絵や装飾には、所有者の好みが反映されることがある。ベリー侯ジャン(1340-1416)のための時祷書には、12か月の暦に対応する12種類の星座を周囲に配置した人体図が採用された。
祈祷文だけではなく、時祷書にはキリスト教における年間の行事が各月ごとに掲載された。しかし、このように星座と組み合わせた人体図は他の時祷書には見られない。その独特な挿絵の選択には、ベリー侯の占星学に対する強い関心が影響していると考えられる。
この緻密な描写の人体図は、かつての医学と占星学の深い関係を示す証拠でもある。身体と天体は、小宇宙と大宇宙という関係にあるとされた。黄道十二宮の各星座が身体の各部位に対応しており、天体の移動が身体の状態に変化をもたらすと信じられていた。
占星学の要素は、四体液説とも呼ばれる体液病理学と結びつけられた。それは、4種類の基本となる体液の状態が心身に影響を与えるという理論である。血液と粘液、黄胆汁と黒胆汁の調和が失われることで病気が引き起こされると考えられていた。
それらの体液の均衡を整えるために、血液を抜く瀉血という治療がおこなわれた。その処置には、星座と組み合わせた人体図が使用された。黄道十二宮と身体の関係が重要であり、瀉血の実行日や処置をする身体の部位の決定に宇宙の影響を考慮したのである。
要素が同数であることから、四体液説は四季や四大元素に対応させることができた。熱と冷、湿と乾という物質の性質も同数である。このような数字の合致は、四体液説が信頼できる理論として長期間にわたり広い地域で信頼を得る要因となる。
4種類の体液は、個人の気質に関係するという意見も存在した。血液による多血質は社交的で楽観的、粘液による粘液質は受動的で内向的な気質を与える。黄胆汁による胆汁質は激情的で外向的、黒胆汁による憂鬱質は消極的で悲観的な気質をもたらすという。
ベリー侯の時祷書における人体図は、12種類の星座による楕円形の輪の内側に描かれている。その外側の四隅には、青色と赤色の文字により複数の概念の対比が記された。黄道十二宮の各星座、物質の性質と個人の気質などが4種類にまとめられている。
身体と天体の関係は、ランブール兄弟の丁寧な筆致により表現された。しかし、1416年に時祷書の依頼主も三兄弟も没する。おそらくペストが原因であり、別の画家たちが残りのページを引き継いだ。そのため、この時祷書は完成までに約1世紀の時間を要した。
図版資料
ランブール兄弟『ベリー侯のいとも豪華なる時祷書』の《解剖学的人体あるいは占星学的人体》(1411-1416)
コンデ美術館(シャンティイ/フランス)
図版出典
File:Anatomical Man.jpg – Wikimedia Commons
参考文献
ヴォルフガング・エッカルト『医学の歴史』今井道夫、石渡隆司[監訳]/東信堂/2014
スティーヴ・パーカー[監修]『医学の歴史大図鑑』酒井シヅ[日本語版監修]/河出書房新社/2017
レイモン・カザル『ベリー侯の豪華時禱書』木島俊介[訳]/中央公論社/1989
木島俊介『美しき時禱書の世界:ヨーロッパ中世の四季』中央公論社/1995

